太郎とチョコと太陽の塔
いやだからさ、手作りチョコってのは止めた方がいいよ。
だってさ、バレンタインデーってのは、女の子が男にチョコくれるんだろ、なんでお前がチョコ作って、彼女に渡すんだよ。
え、コクるのはいいと思うよ、だけどさ、手作りチョコは余計だと思うよ。
やめとけよ、ほら彼女が好きだっていってた太陽の塔のキーホルダー買うのに、このくそ寒い中、付き合ってやったんだからさ、それだけにしろって、それがいいって。
でもさ、この岡本太郎って、すごいよなあ。絵とかさ、なんだか判んないけど、元気になってきっちゃうよな。えっ、これ、えっと『坐ることを拒否する椅子』だってさ、おもしろいじゃんよ。なに、落ち込んできた?拒否されそう?おいおい、何考えてんだよ、おいっ!
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打ち合わせは東京駅で
「東京駅」と一口で言っても、広い。
そして、いつも人で溢れている。
東京駅日本橋口には、スタバが二軒ある。
一つは、三省堂書店の向い側。正確には、八重洲北口店と言うらしい。
そして、もう一つ、そこから50メートルほどのところに、もう一軒。
こっちは、まさに日本橋口の二階にある。
東京に向かって走ってきた高速バスが到着するのを見ることができる。
「元気そうね」
彼女は、クライアントの担当者を見送ると、微笑んで、人差し指で僕の脇腹をつつくようにした、
「使いたいカメラマンがいるから、まず紹介すると言われただけで、君だなんて。知ってたの?」
「知ってたけど、クライアントには言えるわけないじゃない。エクス・ボーイフレンドだなんて。この後、時間は?」
「特にないよ。もう少し長引くかと思ったら会社には、直帰すると言ってあるから。」
「そう、えっと、少し打ち合わせておきたいこともあるから、編集さんと。もう一杯、コーヒーどう?」
「そうだね、編集担当としてお話を伺った、その後、久々の再開を祝して、夕食でもどう?」
それなりに勇気を振り絞って、それでも軽く言うように努力した僕の言葉に、彼女はもう一度微笑んだ。
窓を見ると、彼女の故郷に遊びに行き、帰りに乗ったのと同じ高速バスが見えた。いや、そんなセンチメンタルなことよりも、今、どうするかだ。「なに勘違いしている」とか言われないように、慎重にしなくちゃ。どこで夕飯にしようか、ここからなら、なんだ3年前の初めて誘った時と同じじゃないか。自分自身がおかしくて、笑い出しそうになる。彼女が怪訝そうに、会話を止めた。おっと。
「もしもし、聞いてます?しっかりしてよ、クライアントの希望はね・・・・」
二度目の恋~世田谷美術館
久しぶりに会うことになった彼女とどこに行こうかと思案して、ふと思いついた世田谷美術館に行くことにした。
小田急の成城学園前駅で待ち合わせをして、駅前のコリアンレストランで食事をし、バスに乗って美術館に向かう。
この美術館は、どの駅からも距離があり、さらに最寄りのバス停はいくつもあるが、ちょうど前に止まるところがない。
バス停を降りて、住宅街を抜けて、青物市場の前を通る。
「覚えてる?あなた、前に来た時に、ここで市場の公開をやってて、早く行きましょうっていうのにお野菜なんか買っちゃって。」
「ああ、美術館のロッカーにようやく押し込んだ。」
「なにを見に来たんだっけ、なんだか不思議なものだったわ。」
「ヴィクトリア・アルバート美術館展さ」
「あら、西洋絵画? じゃあ、どうしてなにか不思議なものを見たって思ってるのかしら。」
「イスラム美術だったからね。」
「あら、あなたはそういう不思議なものが好きだったわよね。」
そういうと彼女は、わざと大げさな動きで腕を絡めた。
「不思議なものか」
彼女らしいと、笑いが込み上げた。
そういうところが好きで、そういうところが嫌いだったんだ。
「どうしてた?」
「知ってるんだろ?」
「知ってる。」
「君は?」
「知ってるんでしょ?」
15年ぶりに訪れた美術館の企画展のサブテーマは「約束の旅」
見終わって、まるで小さな聖堂のような美術館の回廊から夕焼けを見上げた。
「大人になって、前と違って、ごめんなさいって、素直に言えるようになったかしら」
彼女がつぶやく。
たぶんね。
☆
谷中の豆大福
「あ、ここ! 両津さんが豆大福買いに来たとこだ。」
「誰よ、両津さんって。また、元彼女の思い出~?いい加減に気を使ってよねえ」
「何言ってんだよ、両津勘吉だよ、こち亀の。うおーほんとにあるんだ。」
「なに感動してんのよ。でも、ほら、ここって豆大福で有名な店なんでしょ。買って行こうよ。」
「おうっ。花を見て腹がいっぱいになるかよ!」
「なに両さんになってんのよ。ばか。」
「梅を見ながら、大福と練り切り、いいわねえ。落ち着くわ。」
「だな~。これでお茶がペットボトルじゃなきゃなあ。」
「ほんと、それ。でもねえ、いいわねえ、古くからのお店で仲の良さそうな旦那さんと女将さん。うらやましいなあ。」
「あのミッキーは不思議だけどな。」
「一緒に暮らしても、あの女将さんみたいにニコニコしていられるかなあ。わたし。」
「ま、まかしとっけって。」
「あ、言ったわね。プロポーズと受け取らせていただいていいのかな。」
「なんか、大福食いながらで、変だけど。」
「口の周り、白いし・・・」
「なに、なんで泣いてるの。入試 就職 結婚 みんなギャンブルみたいなもんだろ!」
「だから、両さんはいいってば!」
※谷中岡埜栄泉
田端のおでん種屋
彼の部屋から鍋を持ち出して、おでんを買いに商店街に。
下町育ちの私は、子供の頃、おかあさんと一緒に買いに行った記憶があるけど、関西育ちの彼はびっくり
「鍋持って、なにしてんの?」
いいから、いいからとエレベーターに乗って、やっぱり途中の階で乗ってきた人にじろじろ見られて。
でも、なんかワクワク。おかあさんと一緒とはやっぱり違う。
これって東京でも下町だけなのかな
おでん種を売っているお店で、おでんを作っていて、鍋を持って買いに行って、種と出汁を鍋に入れて家に持って帰る。
「うほお なるほど~なんかテレビで見たことあるけど、初体験だよ~」
彼は多少、興奮気味
食べられる分だけ買ってね
「そうそう、うちは毎日作ってますからね。足りなかったら、入って買いに来ればいいのよ。」
店のおばさんに笑われる。
「なんかさあ、いいねえ。学生やないけど、ほらなんかフォークとかの世界。知らんけど。でもなんか、楽しいなあ、あとで銭湯に行こうか。」
東京好きになって、東京で一緒に暮らすって言ってくれたらいいのになあ。
今日のおでん作戦はひとまず成功?
おでん種 「佃忠かまぼこ店」 | 田端銀座商店街<東京都・北区>
雨のたまプラーザ
取引先との打ち合わせで、たまプラーザの駅に降りた。
東急田園都市線には、よく乗るが、たまプラーザに降り立ったのは、十年ぶりくらいだろうか。
取引先の担当者の女性は、30代半ばだろうか、頭の回転が速く、打ち合わせは問題なく、あっと言う間に終わった。きりっとした顔立ちに、時折、えくぼが浮かぶ素敵な女性だった。
駅に直結したビルのカフェでの打ち合わせが終わった。挨拶をして、店から出てくると駅前は冷たい雨だった。
ドラマの舞台になるような整った郊外の駅前の風景が広がっていた。子供を連れている母親が多い。幸せな生活がそこにある。
そういえば、十年前にたまプラーザに降り立ったのは、別れた妻との結婚前に新居を探しに来たのだった。十年前とこの駅の景色もすっかり変わった。そんなことも、こうした思い出さないと出てこないくらいの昔のことになったのだ。
しかし、そうか、さっきの彼女。あのえくぼは、別れた妻に似ていたのだ。どこかでまだ引きずっているのだろうか。馬鹿なことを、俺らしくないなと、コートの襟を閉めて、改札に向かった。
浅草寺で着物
「こっちが浅草寺(せんそうじ)、お寺なんだよ。でね、向こうが淺草神社(あさくさじんじゃ。)」
「へえ、そうなんだ。お寺と神社があるのねえ。」
「最近、浅草も和服が多くなったね。」
「私も着てみようかなあ。」
「レンタルできるらしいぜ。」
「なに言ってるの、ちゃんと家から着てこれるわ。ほら、これだものねえ。」
「えっ、そういや、初もうでには着物着てこなかったね。」
「それはあなたが悪いのよ。」
「えっ、なに?」
「だって、全然、うれしそうじゃないし、ほめもしてくれないし。付き合って三年も経つとこうなんですかねえ。」
「いや、そんなことないよ、着物姿、けっこう、気に入っているけど。」
「そういうのは言ってくれないと、判らないの。いろいろとねえ・・」
「いろいろって、えっ・・」
「さあぁ、考えてみてね。気が付いたら、いなくちゃっているかもよぉ。」
「いや、最近は、あれだね、ほら、レンタルで来ている外国人の女の子も、かわいくなってきたよねえ。」
「何言ってんの。じゃあ、乗り換えたら、どう?」
「いや、ごめん、お昼何にする。すき焼きかなあ~天婦羅かなあ~」
「そうねえ、教会かなあ、神社もいいわよねえ、どうしようかなあ。ドレスも憧れるけど、着物もいいわよねえ~」
「えっ、あ・・・ちょっと待って~」
※浅草寺